世界の農作物の3分の1はミツバチの受粉によって実っています。
「ミツバチが絶滅したら生態系が崩壊して最終的に人類は絶滅する」
といわれているくらい重要な生き物です。
そんな農業において欠かせないミツバチが、あるタイミングで突然、大量死・失踪するという現象が見られました。
その原因についてはさまざな説が唱えられてきましたが、ネオニコチノイド系農薬が原因であることが科学的に証明されました。
この記事では、
- 世界中で起きたミツバチ大量死・失踪の現象について
- ネオニコチノイド系農薬が原因とする科学的根拠について
- そもそもミツバチはどうやって受粉をしているか?
- 日本では、お米の等級制度がネオニコチノイド系農薬の使用を強いていること
- ネオニコチノイド系農薬がもたらす生態系の崩壊
についてくわしくお話していきます。
この記事を読めば、ミツバチの減少がいかに深刻な問題なのか、そして私たちの生活が農薬により脅かされていることに気付かされるはずです。
別記事では、ネオニコチノイド系農薬そのものの危険性について徹底解説していますので、ぜひそちらの記事とあわせて読んでいただくことで理解が深まるとおもいます。
それではどうぞ。
世界中でミツバチが大量死・失踪する
1990年代、ヨーロッパを中心に世界各地でミツバチが大量死・失踪するという現象が起きました。
これは、ネオニコチノイド系農薬が使われだしたタイミングと同じです。
この現象は蜂群崩壊症候群(CCD)と呼ばれ、
- 巣に働きバチが残っていない
- 死骸すら見当たらない
などが特徴です。
ミツバチがいなくなると食糧危機にもなりかねない深刻な問題です。
当時、ミツバチ大量死の原因については地球温暖化による病害虫の増加やウイルス感染の拡大など、さまざまな見解がなされました。
しかし、2012年、ネオニコチノイド系農薬が原因だとする科学的根拠が発表されたのです。
ネオニコチノイド系農薬は神経毒性がひじょうに強い農薬。
虫の神経伝達を阻害し、脳のはたらきを狂わすことで虫を殺します。
ネオニコチノイド系農薬が原因とする科学的根拠
2012年、世界的にメジャーな科学雑誌『ネイチャー』と『サイエンス』でネオニコチノイド系農薬がおもな原因とする根拠が掲載されました。
掲載内容を一部紹介します。
ミツバチに致死レベルのネオニコチノイド(成分名:チアメトキサム)を与えた実験では、通常のハチと比べて巣の外で死ぬ確率が2〜3倍高かった。この農薬は中枢神経に作用し、巣に帰る能力に障害が出たと見られる。
『サイエンス』(Henry M,et al.Science 2012;336)
また、実験の結果、
- マルハナバチの女王バチの数がおおきく減少
- よく使用される2種類の農薬(ネオニコとピレスロイド農薬)をあわせてばく露することで、マルハナバチの死亡率の増加、群の弱体化をもたらす
ことなども科学的根拠として掲載されました。
このような実験にもとづいた科学的根拠があるにもかかわらず、農薬製造会社(バイエルなど)は決定的な証拠がないとしてネオニコチノイド系農薬との関連性を否定しています。
農薬製造会社は単にビジネスにならなくなることを恐れて否定しているだけとおもわれます。
EUはネオニコチノイド系農薬3種の屋外使用全面禁止
2012年、科学雑誌『ネイチャー』と『サイエンス』で科学的根拠が発表されました。
これをうけて2013年、EUはネオニコ3種(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム)の暫定的2年間の一時使用禁止を決めました。
その後、2018年、ネオニコ3種(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム)の屋外使用全面禁止を決定。
イギリスは?
2013年当時はネオニコ3種の使用禁止に反対でした。
しかし、2017年のEU脱退後、今度はネオニコの使用禁止に賛成しました。
しかし、日本はどうでしょうか?
別記事でくわしく解説していますが、規制を強化するどころか残留農薬基準値の緩和など、規制をゆるめる一方です。
国民の健康はそっちのけで、おそらく農薬を販売することで得られる利益を優先していると考えられます。
ネオニコチノイド系農薬の規制を緩和した日本の対応などについてはこちらの記事をご参照ください。
【殺虫剤】ネオニコチノイド系農薬の危険性について|なぜ発達障害が増えているのか?
ミツバチの受粉のしくみ
そもそもミツバチの受粉がどのようにおこなわれているのか?
について知らない方のために簡単に説明します。
まずは、野菜やくだものがどうやって実るのかを見ていきましょう。
花は自分で受粉できない
野菜やくだものはその花が受粉をすることで実がなっていきます。
花には真ん中に「めしべ」があり、そのまわりに「おしべ」があります。
おしべの花粉がめしべに付くことで受粉をし、実ができるという仕組みです。
しかし、花がみずから受粉をすることはできないので、ミツバチの力を借りるわけです。
つぎにミツバチがどのように花の受粉の手助けをするのか?について説明します。
ミツバチは花の蜜がだいすき
ミツバチは、花の蜜や花粉が大好物です。
花の蜜を吸うときに、体毛に花粉がいっぱいつきます。
そして、ミツバチは蜜をもとめて花から花へと飛び移ることで、体毛についたおしべの花粉がめしべにつくことで受粉するという仕組みです。
ポイント
- 花は受粉するのにミツバチの手助けが必要
- ミツバチは花の蜜がないと生きていけない
農作物(野菜やくだもの、ナッツ類など)の花とミツバチはおたがいに欠かせない存在なのです。
花の蜜や花粉を巣に持って帰り、巣のなかでそれらを加工して「ハチミツ」をつくります。
ミツバチはそうしてできた「ハチミツ」を食べて生きています。
ミツバチが受粉をおこなう主な作物
冒頭でもお話ししましたが、世界の作物の3分の1はミツバチが受粉をおこなっています。
そして、世界の作物種の7割はハチが受粉をおこなっているともいわれています。
そんなミツバチが受粉をおこなう主な作物を一部紹介します。
ミツバチの受粉で実る作物
いちご、りんご、もも、アーモンド、カカオ、コーヒー豆、きゃべつ、ブロッコリー、にんじん、たまねぎetc…
日本でミツバチがもっとも多く死んでいるのは田んぼ
ネオニコチノイド系農薬はお米の栽培でもっとも多く使われます。
その理由は、お米のきびしすぎる等級制度にあります。
お米の等級制度とは、斑点米(カメムシに吸汁されて黒くなった米粒のこと)が含まれる割合によって販売価格が変わる制度になります。
斑点米が1,000粒に1つだと1等米、1,000粒に2つだと2等米というような等級があります。
お米の等級制度
- 1等米:1,000粒に1つ(0.1%)
- 2等米:1,000粒に2つ(0.3%)
この等級は、下がれば下がるほど販売価格も下がっていき農家は儲かれません。
等級を1つでも上げようと、農家はカメムシ防除のためにネオニコチノイド系農薬を散布するといった具合です。
このきびしすぎる等級制度が原因でネオニコチノイド系農薬が大量にまかれ、ミツバチはそれをばく露することで田んぼや田んぼの周りではミツバチが大量に死んでいるのです。
しかし、いまでは色彩選別機という機械で最終的に斑点米を簡単にとりのぞくので、店頭にならぶときには斑点米は見られません。
お米の等級制度はもはや必要ないのです。
現状、日本政府はお米の等級制度を変える気がないので、いまでもお米の栽培にネオニコチノイド系農薬は使われてしまっています。
ネオニコチノイド系農薬による生態系の崩壊
ネオニコチノイド系農薬は虫の神経伝達を狂わし、死をもたらします。
そんな毒性の強いネオニコチノイド系農薬により、ミツバチの大量死が問題となりました。
じつは、その問題はミツバチだけにかぎった問題ではありません。
もちろん農作物の3分の1はミツバチが受粉していますから大きな問題として取り上げられることは必然です。
しかし、農薬による影響はミツバチ以外にも、昆虫や鳥類などたくさんの生きものに広がっています。
鳥は虫を食べ、虫はまた別の虫を食べるように食物連鎖があります。
農薬によりどんどん昆虫が減少していくことで食物連鎖を通じてほかの生きものも減る可能性があるのです。
最終的には、この負の連鎖により生物が絶滅しかねません。
世界では多くの国がネオニコチノイド系農薬の危険性を理解し、使用の規制や禁止を進めています。
そんななか日本は世界と逆行し、ネオニコチノイド系農薬の規制をゆるめています。
「有機野菜(減農薬)、無農薬野菜などを購入し有機農家の需要を増やしていく」
など、私たちにもできることはあります。
みなさんで日本の未来を守っていきましょう。
まとめ
今回はネオニコチノイド系農薬とミツバチ大量死・失踪とのつながりについて解説していきました。
この記事の重要なポイントはつぎの通りです。
- 2012年、世界的にメジャーな科学雑誌『ネイチャー』と『サイエンス』で、ミツバチ大量死の原因はネオニコチノイド系農薬とする科学的根拠が発表された
- 2018年、EUは科学的根拠をうけネオニコ3種(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム)の屋外使用を全面禁止した
- 日本では、お米のカメムシ防除対策としてネオニコチノイド系農薬がもっとも多く使われるので、ミツバチの死骸は田んぼでよくみられる
- ネオニコチノイド系農薬による影響はミツバチだけでなく、さまざまな生きもの(食物連鎖)にも影響するため、食糧危機にもつながる
ネオニコチノイド系農薬は生態系をおびやかす危険な農薬です。
今後もミツバチをはじめとする受粉を担う昆虫たちが減少すれば、農作物は実らず食糧危機にもなりかねません。
ミツバチたちを守るためにも、私たちができることは、有機農家の農作物を選んで日本の農業の未来を支えていくことかもしれません。
さいごまでご覧いただきありがとうございます🙂
ネオニコチノイド系農薬以外の農薬については以下の記事で解説しています。
【超危険な農薬】使用率トップの除草剤ラウンドアップが人体にもたらす影響
参考:
ミツバチがうまく働くコツと管理方法を公開!イチゴの成功は受粉で決まる|施設園芸.com
ミツバチがいなくなったら、いったいどうなるの?|グリーンピース
知らずに食べていませんか?ネオニコチノイド増補改訂版 [ ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議 ]